審査員

審査観点を固定化させないために、3回を上限に審査員を交代します。
定期的に審査メンバーの入れ替えを行うことで、さまざまなアーティストを支援し続けていきます。

※五十音順・敬称略

BUG Art Award審査員 菊地敦己 プロフィール写真
菊地敦己
アートディレクター、グラフィックデザイナー

1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻科中退。2000年ブルーマーク設立、2011年より個人事務所。ブランド計画、ロゴデザイン、サイン計画、エディトリアルデザインなどを手掛ける。とくに美術、ファッション、建築に関わる仕事が多い。また、「BOOK PEAK」を主宰し、アートブックの企画・出版を行う。主な仕事に、青森県立美術館(2006)のVI・サイン計画、横浜トリエンナーレ(2008)のVI計画、ミナペルホネン(1995-2004)、サリー・スコット(2002-20)のアートディレクションなど。

 

〈審査総評〉
視覚的な作品を言葉にする、つまり思考することは大切なことだと思う。しかし、言葉に回収されてしまっては元も子もない。言語的な整合だけでは片付けられない不可解な領域が、あらゆる作品に内包されているはずだ。そして、その説明し難い複雑さこそが魅力ではないか。今回、書類による一次審査は相変わらず混沌としたものであったが、二次審査以降は(表面的には)明瞭なプレゼンテーションが多かったように思う。安心して聴いていられる反面、物足りなさを感じたのも事実だ。もちろん、明瞭であること自体が悪いわけではないが、整理することで作品自体が漂白されてしまうこともある。意味や美意識や物性や社会性などの間に生じる不合理に、作品の旨味が潜んでいるように感じる。テーマや手法が違っても、言語化の回路が平均化すると、穏やかなバリエーションに留まってしまう。それは、多様とは言えない。

BUG Art Award審査員 中川千恵子 プロフィール写真
中川千恵子
トーキョーアーツアンドスペース 学芸員

パリ第8大学造形芸術学科現代美術メディエーションコース修士課程修了。2025年より現職。

担当した主な展示・展覧会に、「インター+プレイ」展第2期(トマス・サラセーノ、2022)、 レアンドロ・エルリッヒ《建物―ブエノスアイレス》(2021-)、「大岩雄典 渦中のP」(2022)。

 

〈審査総評〉
書類審査では、パフォーマンスを含む複合的な表現、グラフィック要素の強いコラージュを利用した平面表現など、美術の固有のメディウムに包括されない領域の応募作品の増加が見られました。実際に書類を精査すると、過去の作品制作による豊富な修練が反映されていたり、展示プランを精度高く練り上げる力を持っているような、継続して制作に取り組んできた作家が二次審査以降の対象者として残りました。最終選考では、作家自身の出自と強く結びつく題材や素材での制作、あるいは強い愛着や執心が表出するような作品が選出されました。高度に洗練されたコンセプトや造形力に加えて、「作る」動機の必然性も重要な基準であることが示されたと思います。この作る動機が、今日の社会状況に強く結びついた時事性を持ち、美術領域の関心と合致することで、作品と鑑賞者の心がより深く共鳴する予感を感じられたとても刺激的な最終審査になりました。同時に、やもすればそのような制作や活動を「トレンド」化してしまう立場にいる人間として、3回目を迎えたばかりのBUG Art Awardが、流動性と瑞々しさを保つ賞であり続けてほしいと思います。

BUG Art Award審査員 百瀬文 プロフィール写真
百瀬文
美術家

1988年東京都生まれ。2013年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。映像によって映像の構造を再考させる自己言及的な方法論を用いながら、他者とのコミュニケーションの複層性を扱う。近年は映像に映る身体の問題を扱いながら、セクシュアリティやジェンダーへの問いを深めている。主な個展に「百瀬文 口を寄せる」(十和田市現代美術館、2022年)、「I.C.A.N.S.E.E.Y.O.U」(EFAG East Factory Art Gallery、東京、2020年)、「サンプルボイス」(横浜美術館アートギャラリー1、神奈川、2014年)など。主なグループ展に「国際芸術祭 あいち2022」(愛知芸術文化センター)、「新・今日の作家展2021 日常の輪郭」(横浜市民ギャラリー、神奈川)、「彼女たちは歌う」(東京藝術大学 美術館陳列館、2020年)、「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」(森美術館、東京)など。主な作品収蔵先に、東京都現代美術館、愛知県美術館、横浜美術館などがある。2016年度アジアン・カルチュラル・カウンシルの助成を受けニューヨークに滞在。

 

〈審査総評〉
私にとっては審査員の初年度ということから、緊張感と期待を持って臨みました。ファイナリストを選出する時点でどの作品も完成度が高く本当に悩みましたが、最終的には「BUG ART AWARDがこれからどんなアワードになってほしいか」という個人的な願いを託した作品に票を入れました。作品の自律性などもはや何も担保されていないように思える欺瞞に満ちた社会状況の中で、アーティストに一体何ができるのか。私は、現在の鑑賞者である私たち自身に多層的な変化をもたらし、具体的な行動を促してくれるとともに、100年、200年後の鑑賞者にとっても「あの時代にこんなことを考えていた人がいたんだ」というエンパワメントになるような、そんな試みにリスペクトの気持ちを込めて賞を贈りたいと思っています。
また今回審査する中で膨大な応募資料を読みましたが、隙のないように全てを論理的に説明しなければという強迫観念のようなものが時おり見受けられるのが気になりました。それは個人の問題というより、わかりやすさや合理性を求めすぎる社会全体の問題であったり、思考のプロセスにおいてAIとの対話が恒常化している昨今の状況からきているのかもしれないとも想像します。制作において感覚的な判断としか言いようがないことは絶対にあり、明確に構造が説明できる部分と、自分でもよくわからない部分が交差する瞬間にこそユーモアも生まれるはずです。それを一つの豊かさだと信じてみてください。

BUG Art Award審査員 やんツー プロフィール写真
やんツー
美術家

1984年、神奈川県生まれ。今日的なテクノロジーが導入された動きを伴う装置、あるいは既存の情報システム、廃品などを誤用/転用/ハッキングする形で組み合わせ、平面や立体、インスタレーション、パフォーマンスといった形式で作品を発表している。テクノロジーによって無意識化/隠蔽される政治性や特権性を考察し、明らかにしていくことを試みる。文化庁メディア芸術祭アート部門にて第15回で新人賞(2012)、同じく第21回で優秀賞(2018)を受賞。TERRADA ART AWARD 2023 ファイナリスト寺瀬由紀賞。ACCニューヨーク・フェローシップ(2023)にて6ヶ月渡米。近年の主な展覧会に、「MOTアニュアル2023」(東京都現代美術館、東京、2023)、「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館、東京、2022)、「遠い誰か、ことのありか」(SCARTS、札幌、2021)、「DOMANI・明日展」(国立新美術館、東京、2018)、あいちトリエンナーレ2016(愛知県美術館)などがある。また、contact Gonzoとのパフォーマンス作品や、和田ながら演出による演劇作品発表など、異分野とのコラボレーションも多数。

 

〈審査総評〉
今回はファイナリスト6組中、5組の作品が何らかのデジタルメディアを用いた作品となりました。審査員それぞれに専門領域があることは事実ですが、これは今回の傾向であり、あくまでニュートラルに一次審査の書類から面接まで審査をした結果だと考えています。とにかくこの場で伝えておきたいことは、活動歴10年以内であればあらゆる形式の作品に可能性が開かれているので、まずは応募してみて欲しいということです。私も作家という立場で、公募の類は今でもたくさん応募しますが、たくさん落選し、その度に絶望し、一時的に自信が持てなくなったりもします。また審査の側に立てば、美術において他者と競い、優劣をつけられる「アワード」という制度が今の時代にもはや有効ではなくなってきていて、このシステム自体、もっと問い直されるべきでは?と正直感じたりもします。それでも応募するのは、資料を作成する作業が、これまでの自身の活動を振り返って俯瞰し、次の進むべき方向を見定めたり、気付かなかったことを発見するなど、過去の自分に出合い直す豊かな時間になるからです。(審査する側にとっても、一つの作品プランだけでは判断がとても難しいので、これまでの業績が分かるポートフォリオを添付するのは非常に重要です。)また、普段なかなか出会えないような審査員たちに、強制的に自分の存在を僅かでも知らしめる機会にもなります。今回落選した方も、これから応募を考えている方もどうぞお気軽に、次回もたくさんの応募お待ちしてます。

BUG Art Award審査員 横山由季子 プロフィール写真
横山由季子
東京国立近代美術館研究員

1984年生まれ。世田谷美術館、国立新美術館、金沢21世紀美術館を経て現職。企画した主な展覧会に「ルノワール展」(国立新美術館、2016年)、「大岩オスカール 光をめざす旅」(金沢21世紀美術館、2019年)「内藤礼 うつしあう創造」(金沢21世紀美術館、2020年)など。

 

〈審査総評〉
第3回の応募は、過去2回に比べて、AIを使用した作品が増えているという印象を受けました。新しいテクノロジーが、それだけ社会に浸透しつつあるのだと思いますが、選考にあたっては、制作動機と、素材や表現方法、制作プロセスがどうのように結びついているのかという点を重視しました。それと同時に、ある種の分からなさや予測不可能性を秘めている作品にも魅力を感じました。また、審査が進むにつれ、たとえきわめて個人的な動機が出発点であっても、作品が社会に開かれているか、作品を見る人にどんなリアクションを引き起こすか、ということも評価のポイントになりました。
BUG Art Awardは、様々なバックグラウンドをもつ応募者を受け入れ、ひとつの価値基準に傾くことなく、多様な表現を評価することのできるアワードとして、これからも変化を続けていくことと思います。従来の「アート」の概念を拡張するような、あるいはひっくり返すような表現が生まれてくることもあるかもしれません。切実さをもって何かを作ること、表現することに取り組む人が、しがらみなく挑戦できる場所であり続けることを願っています。