キベラ“スラム”から見つめる世界
語られてきた私から、語る私へ。
「CRAWL」は、株式会社リクルートホールディングスが運営するアートセンターBUGが行っているアートワーカー(企画者)向けのプログラムです。企画書をコミュニケーションツールとして、メンターとの壁打ちや参加者同士のピアレビュー、ネットワーク構築などアートワーカーの機会と場をつなぎ、未来へつづくつながりを形成していくことを目的としています。
「CRAWL」で選出された坂田ミギーによる「キベラ“スラム”から見つめる世界 ―語られてきた私から、語る私へ。―」を2026年4月25日より開催いたします。本展覧会では、ケニアの首都ナイロビにある巨大スラム・キベラに暮らす若者たちが撮影した写真・映像を通じて、「語られてきた存在」としてのスラム像を問い直し、「語る主体」として立ち上がります。
多くの若者が「将来の夢はジャーナリスト」と答えるのは、自身の存在を社会から無視され疎外されてきたという実感があるからです。寄付によって集まったカメラと、プロの写真家・映像作家による技術指導をきっかけに、彼女/彼らは自身の暮らし、よろこびや苦しみ、働く姿や生きる希望を記録しはじめました。これは単なる記録ではなく、「語る力」を獲得していく過程そのものであり、これまで外部の視点によって一方的に消費されてきた「スラム」のイメージを、自らの手で再定義していく行為でもあります。
本展では、100点を超える作品と、アーティスト自身による作品解説映像などを展示します。会期中には、キベラで暮らす若者に聞いてみたいことを質問し、後日返事が届く“対話”の機会を設けるなど、被写体と観客のあいだに「語りの往復」が生まれる場をつくりだします。東京の中心とはかけ離れたケニアのスラムでの視点をBUGのホワイトキューブに持ち込むことで、「表現すること」の根源的な力、そして、よろこびを問い直す試みです。
みどころ
ラベリングされた風景の再発見
「スラム」という言葉から、多くの人が思い浮かべるイメージは、貧困や犯罪、希望のなさといったステレオタイプなものかもしれません。しかし、その言葉によって一括りにされてきた場所のなかにも、人々の営みやよろこび、誇りといった多様な瞬間があります。
本展では、キベラで生まれ育ったアーティスト自身が、自らの視点で日常の風景や伝えたい物語を作品として表現します。なかには、自身で脚本を手がけ、映像制作に取り組んだ作品も含まれています。
キベラは世界的に知られる都市型巨大スラムであり、これまでも著名な海外アーティストがキベラを舞台とした作品を生み出してきました。しかし本展では、キベラを「素材」や「舞台」として扱うのではなく、そこに暮らす人々が自らのコミュニティや経験を語る主体となることに焦点を当てます。
制約のなかで生まれる表現の輝き
出展するアーティストの多くは、自身のカメラやパソコンを持っておらず、限られた自己資金でレンタルした機材や、限りあるデータ通信量のなかで制作を行っています。また、高解像度のデータを保存するためのストレージを持たない場合も多く、気軽に多くの作品を高解像度で保存できる環境にはありません。
そのため、展示作品のなかには、画質や編集の面で差異として知覚されるものも含まれています。しかし、それは個人の技術や意欲の有無によるものではなく、利用可能な機材やソフトウェア、通信環境といった制作条件の違いによって生じています。
どのような環境にあっても、人は表現し、創作することができます。一方で、使用できるツールや制作手段の制限は、作品の画素数や解像度、映像表現の幅といった部分に影響を与えます。
作品の見え方と評価の変化を体験する
作品の背後にある制作環境や背景を踏まえて鑑賞することで、同じ作品であっても、その見え方が変化していく体験を提示します。
もし制作環境や社会的背景を知らずに作品を見た場合、画質や音質、編集の手法といった形式的な要素が、技術的な完成度として捉えられてしまうかもしれません。しかし、それらがどのような制作条件のなかで生まれているのかを知ったとき、作品に対するまなざしは変化します。
本展は、解像度や編集手法といった形式的な基準だけでは捉えきれない表現の価値に触れることで、鑑賞者自身が無意識に持っている評価の前提や、作品を見る際のまなざしを見つめ直すきっかけとなることを目指します。
企画者プロフィール

SIer、広告制作会社、博報堂ケトルを経て、株式会社こたつを設立。
旅の途上で出会ったアフリカの孤児・貧困児童と女性へのサポートを目的としたエシカル・クリエイティブ・コレクティブSHIFT80ファウンダー、NPO法人シフトエイティ代表理事。
旅やキャリアに関するエッセイ執筆、講演のほか、キャンピングカーをモバイルオフィス&家として、日本各地を旅しながら働くスタイルを実践中。
著書:「旅の良書2020」に選出された世界一周旅行記『旅がなければ死んでいた』(KKベストセラーズ)、『かわいい我には旅をさせよ ソロ旅のすすめ』(産業編集センター)など。
受賞歴:Forbes JAPAN 2025年「NEXT100:100通りの世界を救う希望」、価値デザインコンテスト グランプリ・経済産業大臣賞、
第11回女性社長アワード「J300アワード」、Cannes Lions、New York Festivals International Advertising Awards、Spikes Asia、Ad Fest、広告電通賞など。 ACC2022審査員。
企画者・坂田ミギーからのメッセージ
本企画は、ケニア・ナイロビのキベラにおいて約13年にわたり教育支援や表現活動に関わるなかで、外部の視点から語られてきたキベラではなく「ここで暮らす人々にしか語り得ない経験や風景があるのではないか」と考えてきたことに端を発しています。キベラに暮らす若者やアーティストが、自らの視点で日常や社会を記録し、発信できる機会を創出することを目的に、本企画の構想が進められました。
その具体的な取り組みとして、映像作家の池谷常平およびフォトグラファーの政近遼が中心となり、日本国内で使われなくなったカメラを収集・寄付するとともに、現地の若者に向けた写真・映像制作の技術指導を行うプロジェクト「KIBERACTION」を実施しています。本プロジェクトの一環として、2025年4月および2026年1月にワークショップを開催し、ムービーおよびスチール撮影の基礎的な技術レクチャーに加え、参加者自身による企画立案や撮影実習を行いました。
寄付されたカメラは現在、現地メンバーによって共同管理されており、申請制で共有利用できる仕組みのもと、継続的な制作活動に活用されています。ワークショップ参加者の中には、自ら脚本を執筆し、出演者を募り、寄付された機材を用いて短編映像作品を制作するなど、主体的な創作活動を行う若者も現れました。こうした姿を目の当たりにするなかで、キベラに暮らす人々自身が、自らの経験や視点をもとに地域を語る作品を生み出し始めていることを実感しています。
このような取り組みを踏まえ、キベラに暮らすアーティスト自身が、自らの視点で地域について語る展示を実現したいと考えていました。そうしたなか、アートセンターBUGが主催するアートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」において本企画が選出されたことで、東京での展示機会が実現しました。
これを受け、ワークショップ参加者に限らず、すでにキベラで写真家や映像作家として活動しているクリエイターにも広く呼びかけを行い、日本での展示機会を通して自らの作品や視点を発信したいと考える人々から応募を募りました。その結果、32名から応募が寄せられ、書類選考および対面形式のオーディションを経て、最終的に12名のアーティストを本展の出展者として選出しています。
本展では、こうしたプロセスを経て展示される写真・映像作品を通して、キベラに暮らす若者たちの経験や視点に基づく表現をご覧いただきます。
◾️坂田ミギーのこれまでの取り組み
坂田ミギーは、2013年にケニア・ナイロビのキベラを初訪問して以降、現地コミュニティと親交を深めてきました。2018年より経済的困難を理由に生理用品を入手できず、学校を欠席せざるを得ない女子生徒に対する生理用品の提供および月経教育の支援を開始。2022年には、持続可能な支援の仕組みを構築することを目的に、エシカル・クリエイティブ・コレクティブ「SHIFT80」を立ち上げ、キベラの人々と協働した制作活動を行っています。これまで、日本のフォトグラファーや映像作家とともに、現地の人々とコラボレーションした撮影や映像制作など、共同で作品を制作する機会を創出してきました。
その後、奨学金の支援や学校運営のサポート、子どものためのレスキューセンターの運営支援など、教育機会の確保に向けた取り組みを継続的に行っています。
また、就業機会が限られた環境のなかで、日雇い労働などのインフォーマルセクターに従事する人々が多い現状を踏まえ、現地でのマイクロビジネスの起業支援にも取り組んできました。
こうした継続的な関わりや協働の経験を通じて、外部のクリエイターとともに制作を行うだけでなく、キベラに暮らす人々自身が自らの視点で地域について語る機会の必要性を認識したことが、本企画の構想へとつながっています。
出品アーティスト(予定)
アシニナ・イブラヒム/Asinina Ibrahim
ビッグ・ダビド/Big_davido
ディジー・ディジー/Dizze Dizze
フランクリン・オランド/Frankline Olando
イスマエル・フォトグラフィー/Ismael Photography
エムシー・ポポ/Mc Popo
ラムカリノ・ケーイー/Ramkalino KE
ラマダン・サイード・アリ/Ramadhan Said Ali
サー・ジェリー/Sir.jeree
スティーブ・バナー/Steve Banner
ヴィン・セカニ/Vin sekani
エイトケーティーヴィー・キベラティーヴィー/8KTV KIBRATV
2026年4月25日(土)ー5月31日(日)
11:00 — 19:00
火曜
※ただし5月5日(火祝)は開館します。
無料
BUG
SHIFT80




