撮影:Hojun Lee
7月に韓国で開催したBlackPoint展会場風景


株式会社リクルートホールディングスが運営するBUGでは、2025年9月4日(木)より「Black Point」展を開催します。これはBUGが、韓国のSahng-up Galleryを迎えておこなう「黒」をコンセプトとしたグループ展です。Sahng-up Galleryは、持続的な活動のための商業的視点と、新進アーティストの実験的な取り組みを歓迎する非営利的視点のバランスを取りながら、ソウルにて2つのギャラリーを運営しています。

複数の視点からアート業界のエコシステムを育もうとするSahng-up Galleryの活動は、展覧会や公募プログラム、労働環境の整備などさまざまな面からアーティスト/アートワーカーの持続的なキャリア支援を志すBUGの活動と、方法は異なれど重なる側面があります。そこで今回は二国間の交流を通じ、相互に示唆を得る機会として本展を企画しました。

また本展に先がけ、7月には第1回BUG Art Awardのファイナリスト彌永ゆり子、宮内由梨がソウルでのグループ展に参加しました。そして8月下旬には本展のプレイベントとして、アジアのアートシーンにフォーカスしたいくつかのイベントも開催する予定です。BUGでは海外のスペースやアーティスト/アートワーカーとの交流を通じ、新しい展開を模索していきます。


キュレーター ヤン・チャンジェ(양찬제 | Chanje Yang)からのコメント

《ブラック ポイント》は、「黒」という絶対的な色彩に焦点を当て、現代作家たちの感覚的解釈と実験的姿勢を照らし出す展覧会です。墨の美学と色彩の哲学を基盤に、絵画、写真、インスタレーションなど多様なメディアを通じて、「黒」が持つ思索性、物質性、そして実践としての可能性を探求していきます。


みどころ

「絶対的な黒」をめぐるアーティストたちの感覚的実験

〈ロシアの画家カジミール・マレーヴィチ(1878–1935)は、絶対主義の創始者であり、抽象美術の先駆者である。彼は、抽象的な図形を最も簡潔に凝縮した形として画面に配置した。黒い正方形を基調とし、円、三角形、十字形などを組み合わせた単純な構成によって、象徴でも幾何学でもデザインでもなく、内的秩序に従って形成された「自然をはるかに超えた純粋な感覚」を表現しようとした。マレーヴィチにとって黒は、最も完全な色の定義であり、絵画が到達し得る極致であった。

黒はすべての色を吸収した末にたどり着く「完全な無」である一方で、光を受けることで強い反射を起こし、白のように見えることもある。このように黒は、色の三原色(CMY)をすべて混ぜ合わせた物質的な色でありながら、光の三原色(RGB)が作用することで白に転じる可能性も含んでいる。吸収と反射、闇と光、物質と光という二重の構造の中で、黒は単なる不在ではなく、すべての色を内包する潜在的な状態として、感覚と知覚の境界を横断する哲学的な空間として機能する。

先史時代の洞窟壁画にも見られるように、黒く焼けた木炭は人類が初めて用いた表現の道具であり、最も原初的な色彩としての黒を示している。古代の感覚と現代抽象美術の論理構造の狭間で、黒は物質性の始まりと終わりを表す色であり、哲学的思索を含んだ決定的な色として機能してきた。このように黒は、東西の歴史と文化、物質と精神の層において芸術の起源を象徴するものである。本展は、こうした絶対的な色彩としての黒に着目し、それに対する作家たちの感覚的解釈と実験的態度を照らし出すことを目的としている。 特に、東アジア絵画の伝統において中心的に用いられてきた「墨」は、本展の概念的な出発点である。墨は単なる黒の顔料ではなく、「一つの色で世界全体を表現する」という東洋の視覚哲学を象徴する素材であり、その中には思索の時間、気韻生動の原理、そして不可視の世界に対する感覚が凝縮されている。余白と単色性、非物質性と感覚の濃縮によって構成される東洋絵画の美学は、本展において現代的な感覚と言語で再解釈される。作家たちはこの伝統の形式や精神を単に継承するのではなく、それを基盤として新たな視覚言語へと発展させている。出展作家たちはそれぞれの方法でこの精神を拡張している。

韓国出身アーティストたちの新作を展示

チョン・ヨングクは墨を基盤にした素材の実験と絵画的構築を通じて、物質性と精神性が交差する平面を創出する。パク・ジニョンは、モノクロ写真と手作業によって写真メディアの感光性と残余性を探求し、チェ・ソンは反復的な行為と低いジェスチャーを通して、概念と実践が交差する構造を形成する。キム・ジミンは東西の文化的要素を再構成し、絵画的な物語を展開する。チョン・ソンジンは3Dグラフィックスを活用して、夢と無意識の中で再構成された空間を視覚化する。黒はRGB加法混合系においてすべての値が0で定義されており、一見何も存在しないように見えるこの「0」の状態は、すべての色を内包する潜在的な空間でもある。墨はこの無限性を象徴し、一つの色で世界を表現するという哲学を内包している。《ブラック ポイント》は、こうした色の物理的かつ哲学的な条件に基づき、黒という色彩の意味を改めて問うものである。

会期前からトークイベントを開催

8月27日(水)19:00〜20:30(オンライン開催)
「書く」仕事の現在とこれから──日本・韓国・台湾で活動する書き手たちが語る
本イベントでは、日本、韓国、台湾で書くことに従事する3名をゲストに迎え、それぞれの活動のリアルな姿を語っていただきます。それぞれのちがいから書き手の現在地を知り、また相互に示唆を得る機会になりましたら幸いです。

▼登壇者:中島水緒(美術批評)、紺野優希(美術批評家)、岩切澪(台湾在住アートライター、翻訳者)

9月4日(木)17:00〜18:00(現地開催・インスタライブ配信)
本展キュレーター×アーティストトーク
出展アーティストとキュレーターによるトークイベントを開催します。天野太郎氏(東京オペラシティアートギャラリー チーフ・キュレーター)をゲストにお呼びし、本展のコンセプトや作品についてお話しする予定です。

▼登壇者:ヤン・チャンジェ(Sahng-up Galleryオーナー・キュレーター)、チョン・ソンジン(アーティスト)、チェ・ソン(アーティスト)、Area Park(写真家)、天野太郎(東京オペラシティアートギャラリーチーフ・キュレーター)
※当日は日本語、韓国語で逐次通訳をおこないます。
※予約・詳細はイベントページよりご確認ください。


Sahng-up Galleryについて

Sahng-up Galleryは、ソウルに2つのスペースを有するギャラリーです。2017年に設立された乙支路(Euljiro)にあるスペースでは、現代美術を中心に、アートの社会的役割に焦点を当て、年間10回以上の展覧会を開催しています。2021年には龍山(Yongsan)に支店をオープンしました。Sahng-up Galleryは、アートの商業的側面と非商業的側面が交差する領域において、明確な社会的価値を定義し、未来へのビジョンを提示することを目指しています。急速に変化する社会構造と予測不可能な危機の時代に、韓国の現代美術に関する様々な言説を共有することで、アートが果たせる社会的な役割を模索しています。
https://sahngupgallery.com/index



キュレーター プロフィール

ヤン・チャンジェ/양찬제/Chanje Yang
Sahng-up Gallery代表・キュレーター

ヤン・チャンジェは2000年代初頭からソウルを拠点に活動してきたキュレーターでありディレクターである。彼は「Sahng-up Gallery(상업화랑)」を設立・運営し、現代美術の新たな流れと実験を継続的に紹介してきた。

中央大学校一般大学院で彫刻を専攻したのち、ギャラリー・サガンとギャラリー・ヒョンデにおいて企画室長を務め、美術界における実務経験を積んだ。またその後、ギャラリー・ヒョンデの客員理事としても活動した。2017年からはサンオプ・ギャラリーを設立し、数多くの展覧会を企画・運営しており、公的機関と民間領域の境界を越える展示実験を続けている。

代表的なキュレーションとしては、《データ真空とデジタル・アノミー》(ハナ銀行ハートワン、2024)、《NEXT-UP》(オンス空間・ファインペーパーギャラリー、2024)、《夢の工場》(Sahng-up Gallery・ウルチロ、2023)、《非核化宣言》(南山図書館・マルベリーヒルズ、2023)、《CROSSING ONE》(ハナ銀行ハートワン、2023)、《自宅軟禁》(Sahng-up Galleryおよび連携スペース、2022)、《FLOATING GARDEN》(現代百貨店モクドン店、2022)、《UNSEEN_》(ムルレ芸術工場、2022)、《平平–ぺんぺん》(COEX、2020)などがある。

キュレーターとして、実験的な展示形式や都市空間の再解釈、技術と芸術の融合を通じた新たな感覚の提示に力を注いでいる。


会期

2025年9月4日(木曜日)ー9月15日(月曜日・祝日)

時間

11:00-19:00

※9/4は17:00に閉館します。

休館日

火曜日

入場料

無料

主催

BUG