インディペンデントキュレーターとして活躍する池田佳穂さん。
BUGでの「バグスクール:うごかしてみる!」のキュレーションも記憶に新しいですが、展覧会のキュレーションにとどまらない幅広い活動をされています。
アートワーカー(企画者向け)オンラインプログラム「CRAWL」のメンターはどのような遍歴でさまざまな企画を立ち上げてきたのでしょうか。
前編では池田さんのアートへの関心からどのようにその仕事に就くまでをお伺いしました。後編では、インディペンデントキュレーターでの活動や大切にしていることなどをお話ししてくれています!(前編はこちら)
フラットに見ながら、ずっと並走している姿勢が今までの話にも感じられ、池田さんの最初から最後までを貫く大事な姿勢な気がしています。
例えば企画をするときとか、考えていることとかに繋がるのかなって思ったりしています。
アーティストを選出して見せ方を考えるのは、自分はあんまり向いていない気がして。編集的に企画を立ち上げるより、自分の問題意識や興味関心を膨らまして、できる限りクリエーションに近い企画の立ち上げ方をしたいなと思っています。
で、その自分の見つけたクリエーションの種を、一緒に育ててくれるようなアーティストに声をかけて。でも、アーティスト自身もいろんな視点を持っているので、丁寧にコミュニケーションを取りながら、自分の想定していたものとは違う形になっても面白いと思って、協働していくことや企画を一緒に育てていくことを楽しんでいる感じはあります。
そのメソッドでグループ展を作るのは困難が多いと想像しました。昨年BUGにて開催された『バススクール:うごかしてみる!』はどのようにしたのでしょうか。
最初に9人全員を集めてしまうか、そうしないかを考えていて、個人的には、1人1人に向き合った方が、今回は純度の高いクリエーションができると思ったので、ずっとマンツーマンで進めました。各自からバグスクールに対する率直な意見を聞いて、企画自体を調整する一方で、私のリクエストや考えを相手に伝えて、作品プランをブラッシュアップしていくというのを、9名分全てが実現した状態で、内覧会でようやく全員が顔合わせでした。
例えば、1人がバグスクのことを、「Aだ」って言うじゃないですか。で、もう1人が「Bだ」って言うじゃないですか。それを集約してまとめ上げていくという感じなんですか。
まとめるというより、まず自分の意志を持った上で「Aだ」という意見を聞いて、企画を変えるべきだと思ったら「A」を考慮しながら調整して、やっぱり変更しない方が良いと思ったら相手ときちんと合意できるよう真摯に向き合います。で、「Aではない、Bだ」という人が現れた場合も、 まずは自分の企画趣旨と照らし合わせて、お互い納得いくまで話すみたいな感じですね。
池田さんが考えていることが軸にあり、池田さんの軸をどれだけ膨らまして、アーティストがその中に入ってくるか、みたいな感じですかね、今の話だと。
そんな感じで、9人は大変でしたね。
そのやり方だと、相当時間かかりますよね。
かかりましたね。でも、おかげで、参加アーティスト全員が初めて集合した時は、自分のプランや表現に確信を持った状態だったので、より自然に他人の表現に興味を持ったり、 他アーティストのワークショップに参加したり、会期を通して積極的な交流が生まれていました。ちゃんと土壌を作った上で、交流した方がいいなと実感して。それがキュレーターの仕事でもあるかなと。インディペンデント・キュレーターとして、初めて大人数のグループ展を企画しましたが、大変な一方で楽しかったです。
例えばその仕事の仕方だと、企画書を書くじゃないですか。
で、その後に、アーティストとこういう企画やりたいですって言って、誘って、アーティストと話していくうちに、企画自体が変わってったりとか、コンセプトが当初の企画書からずれたりするってことは、大いにしてあるっていう感じなんでしょうか。
今回のバグスクールでは、企画書が軌道修正するぐらい大きなことはなかったんですけど、でもそれはあっても面白いかなとも思ったり。
なるほど。じゃあ、ご自身が企画して立ち上げた中で、1番印象的な出来事とかってあったりしますか。
バグスクールもそうだし、2023年大阪の山中suplexの別棟「MINE」でダンサーのAokidさんと都市計画研究者の清山陽平さんと協働して開催した「オープンパーク MINE : ストリート/どう遊ぶ?」という展覧会もそうだし、閉幕後に企画関係者、鑑賞者、イベント参加者が繋がり続けていることが印象的でした。
ワークショップに参加した人がスペースに通い続けたり、影響を受けて自身でもクリエーションを始めたりとか。バグスクールだと、一部の参加アーティストたちが実験的に新素材を試す部活動的なことを始めていました。自分が関わった企画が、1つのイベントとして消費されるんじゃなくて、関係性が作られてくのは面白いなと思って。
自分のキュレーション領域を展覧会に限定したくなくて。パフォーミングアーツとか、教育的なラーニングプログラムとか、その1つに展覧会があるイメージです。目的に合わせて複合的に組み合わせた企画をやりたいなと思っています。今度山中suplexでプログラムディレクターとして関わる企画は、全国津々浦々から団体が集まり、生き抜くための知識体験を共有する1泊2日キャンプ形式のシェアミーティングです。おそらく分類としては、ラーニングに入るのかなと思っています。
ラーニングは池田さんにとってどのような位置付けにあるのでしょうか。
美術館で働いている時にラーニングと出会いました。展覧会だけじゃなくて、鑑賞ツアーを開催して参加者の気づきを拾いながら展示作品を伝えたり、 もしくは出展アーティストにワークショップを実施してもらって、制作の手前を共有したりとか。教える/教わる立場じゃなくて、アーティストと参加者が共に考える姿勢にとても共感できました。参加者にとって新しいアートの関わり方だと思うし、アーティストにとっても参加者と視点や意見を交換できるのは、すごくいい機会だと思っていて。私は美大出身ではないので、アートがより社会に開いていったら面白くなるなっていうのは前から感じていて、ラーニングはアートと社会が接続する重要な手段だと考えています。
キュレーターは展覧会を作る仕事だ、と捉えられていることが多いですが、例えば、池田さんの仕事の中で、展覧会企画だけじゃないけれど、自分が関わった仕事を教えてください。
展覧会企画以外だと、2021年からダンス公演の舞台監督アシスタントや演劇公演の制作をしていました。
アート領域でダンサーやアーティストをパフォーマンスアートとして呼ぶことには慣れていたんですけど、パフォーミングアーツ分野のお作法やクリエーションの立ち上がり方をもっと勉強したいなと思って。3月は野外の演劇公演とドライブツアーを組み合わせた企画の制作をしています。今後自分が複合的な企画をやるときに役に立つんじゃないかと思って、飛び込んでいる感じです。最近は演劇の立ち上がり方にも興味をもっています。
企画の立ち上げ方が演劇と美術で違うというのはどのような違いを感じたのでしょうか。
個人の経験からなので、一概には言えませんが、美術はグループ展で考えてみると、設定したテーマのもと、キュレーターが一人ひとりの個性や作品を丁寧に掘り下げ、各アーティスト同士のグルーブ感や全体のストーリーを展示空間で生み出していくと思っていて。
演劇は最終的に演出家の作品として練り上げられていくのですが、稽古で演出家や俳優などの関係者が、実験的に表現を模索していく様子を何度も目撃しました。演出家の舵取りはありつつも、クリエーションの種を全員で育てていく現場に驚きました。
領域横断とか、複合的な企画を立ち上げたいということを何度かおっしゃられていましたが、どのような思いがあるのでしょうか。
インドネシアの経験が大きいかもしれないですね。インドネシアは音楽、パフォーミングアーツ、アクティビズム、アート、パーティーなどの各シーンに境界線があんまりなくて。まずは面白いことやってみようとか、もしくは社会に対するカウンターとして表現や文化インフラつくろうとか、ピュアな動機の企画が多い印象でした。
私は音楽、アクティビズム、アートと関わり、美術館ではラーニングに興味を持ったり、さらに近年は演劇に関わったりしてますが、それぞれの領域横断することが目的じゃなくて、面白いアイデアを思いついた時に、分野を制限せず、企画のフォーマットから立ち上げてみたいなっていうのはありますね!
2016年より東・東南アジア中心に、土着文化や社会情勢から発展したコレクティブとDIYカルチャーを調査。主にインドネシア各地で展覧会やワークショップなどを現地アーティストと共同開催した。展覧会・パフォーミングアーツ・教育プログラムなどを複合した横断的なキュレーションに関心をもつ。森美術館でアシスタントとして経験を積み、2023年春に独立。
近年の実績は「オープンパークMINE:ストリート/どう遊ぶ?」(山中suplex別棟MINE、2023)、「Radical Guidebooks to Our Futures」(Leggy_/Dig A Hole Zines同時開催、2023、Jason Waiteと共同企画)、「バグスクール:うごかしてみる!」(BUG、2023)、「一人で行くか早く辿り着くか遠くを目指すかみんな全滅するか」(山中suplex、2024)、神戸六甲ミーツ・アート2024 beyondのキュレーター就任。