「世界に、バグを」というキャッチコピーを目にすると、私はどうしても不穏な企みが頭をよぎる。
バグとはプログラムの穴が現れたり、設計とは異なる動作が生じるという意味だが、今私たちが生きている「世界」というものが何かによってあらかじめあるべき 形に設計されていて、その中に私たちは生きているとしたら、バグは発見され次第直ちに何事もなかったかのように穏当に処理しなくてはならない。ゲームでない限り、バグを許容するような余裕などその世界に生きている私たちにはあるわけがないのだから。
バグの可能性に賭けるということはその意味で、これまで私たちが生きていた世界とは異なる世界に向かう不可逆な変化に賭けるということである。そして私の不穏な企みというのはこの賭けに他ならない。
これは誇大妄想的な芸術に対する幻想なのかもしれない。BUG Art Awardにおいて掲げられている「バグ」というテーマはもっと穏当な意味合いであろう。しかしながら、私はきっと心のどこかで少なからず芸術にそのような可能性をいまだに期待していて、きっとそのような期待を隠し持っているのは私だけではないと思うから言うのである。なぜなら「芸術」という営みがこの世界にまだありうるとするならば、それはきっとどんな世界であれ私たちが生きている世界に逆立する世界を打ち立てる営みに他ならないからである。
ファイナリスト展は今回のコンペティションで選ばれた六人のアーティストによる展示であり、ゆえにこの展示自体が一つの総体を持ったものとして作られたわけではない。しかし、私が展示を見た時にはそれぞれの作品が互いに呼応するような関係性を持っていたのは確かであった。