たかくらかずきコメント

国内の現代美術シーンにおいてキャラクター表現といえば「美少女アニメ風キャラクター」が主流ですが、今回はそこから外れてきた存在である「アニメ/オタクカルチャー以外のキャラクター表現」を取り扱います。

いままでキャラクター表現は、「物語」とともに語られてきました。00年代以降の言説では、キャラクターを物語と結びつけて消費することの崩壊について論じられましたが、これらはあくまで物語表現を主体とした視点から述べられています。そのようなポストモダニズムとオタクカルチャーの目線から物語とキャラクターについて語られるときに見落とされてきた全く別の視点が、キャラクター表現には隠れているのではないでしょうか。

本展では、その見落とされてきた歴史を拾い、紡いでいくことが目的です。たとえばゲームにおける「キャラクター」は、操作するためのキャラクターであるという点において、物語と切り離しても「プレイヤーの依代(神霊が依り憑く対象物)」として存在可能です。つまりそれらは人間の容姿である必要も、人間的なドラマも必要ありません。これらは、儀式的な展開(日常に怪獣が登場し、英雄が巨大化し怪獣を排除する)を繰り返す特撮作品をはじめ、文具/玩具などの商品化を前提としたキャラクターや、さらに遡ると妖怪や神仏などのバリエーションとも共通します。

今回参加する6名のアーティストは、主に平成以降のゲームや特撮、玩具やカートゥーンアニメなどのキャラクターの影響を受け、作品を制作しています。オタクカルチャーと00年代以降の日本現代美術の強固な相互補完関係から抜け落ちてきた、妖怪や精霊信仰、多神教的世界観とも共通する「キャラクターバリエーション」の世界を、並列的な生態系の曼荼羅「キャラクター・マトリクス」として再考します。


たかくらかずき/Kazuki TAKAKURA

1987年、山梨県出身。東京造形大学大学院修士課程修了。ビデオゲームやピクセルアート、VR、NFT、AIなどのデジタル表現を使用し、仏教などの東洋思想による現代美術のルール書き換えとデジタルデータの新たな価値追求、キャラクターバリエーションの美学をテーマに作品を制作している。作品は山梨県立美術館や足利市立美術館、メキシコ、ボストン、韓国、ニューヨークなどで展示。京都芸術大学非常勤講師。 https://takakurakazuki.com/

主な展覧会:
2024年 「新たな美術の世界をひらく 足利リアルアート体験-小松美羽、石黒昭、たかくらかずき-」足利市立美術館、栃木
2023年 LABONCHI01. たかくらかずき「メカリアル」山梨県立美術館/山梨県立美術館メタバース、山梨
2023年 「アートは魔術 / ⼟⾊豚 選抜展その2 Art is Magic」日本橋アナーキー文化センター、東京

受賞歴:
2012年 第7回グラフィック「1_WALL」ファイナリスト
2021年 ARTIST FAIR KYOTO 2021 優秀賞(椿昇賞)

 


みどころ

展覧会タイトルに込められた意味

マトリクスとは、数学の用語で「行列」を意味しますが、本展では「上下の関係がなく、格子状に広がりをみせる様子」を表すためにこの言葉を使用します。曼荼羅のように方向性を持たず、ネットワーク状にキャラクターが存在するさまを、たかくらは「キャラクター・マトリクス」と名づけました。これまでの美術史ではあまり語られてこなかった、美少女アニメ的ではない、また物語を有さない記号的なキャラクターたちのバリエーションを紹介します。

散策するように楽しめる、高低差のある会場。各アーティストの新作も展示

会場の奥が高台のようになる今回は、そこをのぼるまでの道程(スロープや階段)や、その下にも作品を展示します。来場者は、会場内を散策しながら身体や視点を動かすことで、シームレスに点在する6名の作品と遭遇することになるでしょう。

また、出展アーティストそれぞれの新作もみどころです。
「ウルトラ怪獣」から影響を受けた青山は、縫い目があり、ドロドロとした昭和的なキャラクターのテクスチャと、フラットでツルツルした平成的なキャラクターのテクスチャを織り交ぜた絵画作品を展示します。動物の皮に綿をつめ、刺繍を施してつくられたこの作品を、青山は「ぷくぷく絵画」と称します。本展では、八岐大蛇(やまたのおろち)をモチーフとした過去最大級のサイズのぷくぷく絵画を展示します。
影山は、キャラクターの輪郭線がぐにゃぐにゃと動き、変形し続けるアニメーション作品と、メタバース(三次元仮想空間)のゲーム作品を出展します。草花が生い茂る平地や、池のある風景がパステルカラーで描かれたメタバースの中央には、影山が制作したアバターが存在します。来場者も体験可能な本ゲームでは、このアバターをコントローラーで動かすことで、空想世界を探検していただけます。
幼少期から国内外のキャラクターフィギュアを蒐集する九鬼は、108体ものフィギュアを模した陶芸作品を出展します。舌を出したり、牙を剥いたり、目を見開いたりと、多様な表情を浮かべるキャラクターたちは、会場内の階段や棚、床などさまざまな場所に設置されます。この作品たちを思いがけず見つける体験は、かくれんぼや視覚探索絵本* を想起させることでしょう。
たかくらは、東洋思想や仏教などをもとに現代美術のルールをアップデートしようと試みます。今回は、たかくらの作風を学習したAIが生成するイメージと、手描きのイメージを組み合わせて、曼荼羅をモチーフとした掛軸を制作します。
谷村は、ソフビやカートゥーンをインスピレーション源に、新たなモンスター像を生み出します。発泡ウレタンやグルースティックを素材とし、アクリル絵の具でカラフルに着色された平面作品は、会場でも目を引くことでしょう。また今回は、手のひらサイズの立体作品も制作し、九鬼、平山のつくる立体作品とコラボレーションします。それぞれのキャラクターが交わることで生まれる、新たな光景をお楽しみください。
平山は、とある怪獣をモチーフとした全長4メートル、台座1メートルの彫刻作品を発表します。土粘土から成る本作は、乾燥によりヒビ・割れが生じてしまうため、会期中はパフォーマーが定期的に水やりを行います。自然を振り回してきた人間が、自然に振り回されるという関係性の転覆がユーモアを交えて表現されます。

*『ウォーリーをさがせ!』や『ミッケ!』をはじめとした、特定の人やモノを探し出す内容の絵本。

16日間の会期中、トークイベントとワークショップを開催

トークイベント 出展アーティスト6名によるトーク
今回の展示作品やそれぞれのキャラクター史などについて、6名がお話しします。
出演|青山夢、影山紗和子、九鬼知也、たかくらかずき、谷村メイチンロマーナ、平山匠(敬称略)
日時|
2024/8/31(土)18:00〜19:30
※事前予約制、詳細はイベントページにて。

オリジナルキャラクターのシール制作ワークショップ
平らな面に何度も貼ってはがせるシール(ペタペタ焼き)をつくるワークショップです。こちらで用意した出展アーティストのオリジナルキャラクターの下絵に色をぬっていただけます。シールの大きさは、直径12〜14cmくらいで、窓や鏡にはった際も存在感のあるサイズです!

日時|
2024/9/1(日)①11:00〜12:00、②12:30〜13:30、③14:00〜15:00
2024/9/7(土)①11:00〜12:00、②12:30〜13:30、③14:00〜15:00
※事前予約制、詳細はイベントページにて。


開催情報

参加アーティスト

青山夢、影山紗和子、九鬼知也、たかくらかずき、谷村メイチンロマーナ、平山匠

会期

2024年8月30日(金)– 9月16日(月・祝)

時間

11:00 — 19:00
※9月7日(土)は17:30に閉館します。

休館日

火曜

入場料

無料

主催

BUG

協力

O株式会社