株式会社リクルートホールディングスが運営するBUGでは、2024年6月26日(水)より、小林颯による個展「ポリパロール」を開催します。小林は、東京藝術大学大学院を修了後、2020年に公益財団法人江副記念リクルート財団の奨学金を受給してベルリン留学を実現しました。その間に国内で複数の賞を受賞するなど、これからが期待されるアーティストです。BUGでは小林の今後のキャリアを後押しすべく、新作を含め本人にとっては最も大規模となる個展を開催します。
本展のタイトル「ポリパロール」は、「複数の」を意味する「ポリ(poly-)」と、言語学上で「個人が特定の場で行う発話行為」を表す「パロール(parole)」を合わせた、小林による造語です。
留学と同時期に起こった新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、人種による分断や対立を深めました。小林も一時帰国できず、見知らぬ土地でエクソフォニー*(ドイツ語で「母語の外に出た状態一般」の意)という状態を経験し、〈よそ者〉について考えるようになります。
展示作品の一つ《つぎはぎの言語》は、ベルリンに亡命した中国四川省出身の詩人との対話から制作されました。詩人は、自身の亡命を「我跑了(私は逃げてきた / I ran.)」と言い表します。小林は、異なる文脈を持ちながら共鳴する詩人の言葉を用い、〈よそ者〉同士を縫い合わせようと試みます。
本展では、展示作品や会期中に開催するイベントを通して、近年小林が関心を抱く〈エクソフォニー〉〈移民〉〈クィアネス〉といったキーワードを元にした、複数の人々のおしゃべりが聞こえてきます。ベルリンで様々な背景を持つ人々のおしゃべりに触れた小林は、装置、映像、多言語詩、Podcastなどのさまざまなメディアで制作された作品を通して、「個人的なことは政治的なこと」というシンプルで力強いメッセージを伝えます。
*多和田葉子『エクソフォニー: 母語の外へ出る旅』2012、岩波現代文庫
みどころ
おしゃべりが生まれる展覧会
展覧会名である「ポリパロール(Polyparole)」が意味する「複数のおしゃべり」を作品にしています。ドイツ語で「甘い」を意味するPodcastシリーズ《Süß》は、〈移民〉〈クィアネス〉〈アイデンティティ〉といったテーマに関するおしゃべりがくりひろげられた作品です。会場に設置されたヘッドフォンを通して、ラジオを聴くような感覚で作品を鑑賞することができます。「お菓子」の意味を持つ「Süßigkeiten」 というドイツ語にちなみ、おやつを食べるような感覚で、肩肘はらず、気軽に作品を楽しんで欲しいという思いが込められています。
日々おしゃべりが生まれているBUG Cafeとのコラボレーションとして、展示作品の一部をカフェに設置。その他にも、展示エリアの一部にカフェのドリンクを持ち込んで作品を鑑賞することができるなど、どなたでも作品を身近に感じてもらうことを期待しています。
小林にとって初となる大規模な新作《Appeartus》を発表
小林は、自身の身に起こったことや感じたこと、ごく個人的な出来事をもとに作品を制作します。《Appeartus》は、2021年から開始したエクソフォニーと語りにまつわるシリーズの新作で、ベルリンで暮らすアジア系移民の移りかわるアイデンティティを主題としています。本作は壁面に大きく投影された映像と、自転車型装置で構成されたインスタレーションです。映像内では、ヘッドライトの役割を果たす箱状の装置が備え付けられた自転車に小林が乗り、夜の街を走り抜けます。この装置は発話と連動して点灯します。しゃべり続けながら必死に運転する中で、ちりぢりになる言葉たち。会場では、この言葉をもとにした詩のアニメーションも展示します。
小林の作品に登場する人々が持つアイデンティティを通して、〈よそ者〉について思いを馳せることができるかもしれません。
おしゃべりと制作の実践にまつわるイベントを開催!
〈7月5日(金)〉と〈7月19日(金)〉は、ゲストとして、潟見陽、ミヤギフトシ、筒 | tsu-tsuを招き、おしゃべりと制作の実践を行います。
イベントに関する詳細は決まり次第、ウェブサイト、SNSにてお知らせします。
<イベント実施日>
①7月5日(金)18時30分〜20時予定
ゲスト:潟見陽(書店「loneliness books」オーナー/グラフィック・デザイナー)、ミヤギフトシ(現代美術作家)
②7月19日(金)18時30分〜20時予定
ゲスト:筒 | tsu-tsu(ドキュメンタリーアクター)
アーティスト紹介
1995年北海道生まれ。ドイツ・ベルリン在住。
東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。公益財団法人江副記念リクルート財団 アート部門 リクルートスカラシップにより渡独。2024年にベルリン芸術大学大学院アートアンドメディア科修了。器として映像を捉え、自作の装置から新たな語りの形を探る。近作は、翻訳とアイデンティティの観点から、装置、映像、詩作を通じて、エクソフォニーと語りについて再考している。2020年制作の「灯すための装置」が第24回文化庁メディア芸術祭アート部門新人賞を受賞。Forbes 30 Under 30 Asia 2022 The Arts に選出された。
開催情報
2024年6月26日(水)– 7月21日(日)
11:00 — 19:00
*毎週金曜日は20時までのナイト開館
*7/10(水)はイベント開催のため18時閉館
火曜
無料
BUG