2026年2月25日(水)より、やんツー個展「浮遊する器官」を開催します。やんツーはこれまで、AIやセグウェイといったテクノロジーを用いた作品を発表しながら、進歩主義や資本主義に対して批判的なまなざしを投げかけてきました。また、これらテクノロジーに関わる人間の身体性や主体性を捉え直すことも試みています。本展では、AIを搭載したドローンとカタパルト(投石器)が言葉を交わし、その対話の内容に呼応して動作する演劇形式の新作を発表します。


みどころ

展覧会タイトル「浮遊する器官」に込められた意味

「浮遊する器官」とは、本来は「有機的な身体」を基盤としていた「器官」が、テクノロジーとして外部化され、身体から切り離されたまま再配置され得る状態を指します。これは、哲学者のベルナール・スティグレールが提唱した「一般器官学」の概念を下敷きにしています。

スティグレールは、人間とは原初的に欠落を抱えた存在であり、技術や道具——神話においてプロメテウスが人間に与えた火——という義肢によって欠落を埋めることで、はじめて成立する存在だと捉えました。この考え方において、技術とは単なる付属物ではなく、人間存在を根底から支える補完的な要素です。「技術」は、能力や記憶を身体の外部に刻み、継承していく「外在的な器官」だと言えるでしょう。この「外在的な器官」としての技術は、個人の精神活動と社会の制度を媒介する基盤として機能します。例えば「文字」という技術は、個人の思考や記憶を記録する手段であると同時に、法律や契約といった社会を動かす仕組みを成立させる土台となっています。したがって人々は、技術の変容とともに、自らの感覚や思考、さらには社会構造そのものをも再編し続けてきたのです。

こうした視点から見ると、AIやドローンをはじめとする現代のテクノロジーは、人間の目や手、脳などの機能を代行し、物理的・空間的な制約を超えて作用しています。かつて身体に根ざしていたはずの器官は、いまや身体と切り離された「浮遊する器官」として社会の中に配置されるようになりました。この「浮遊」とは、器官を再編しうる可能性を拓く一方で、人間をよりどころのない「宙吊り」の状態へと追い込み、その感覚や思考、さらには社会構造を制御不能なまでに変容させてしまう危うさをも孕んでいます。スティグレールが指摘したように、技術とは人間にとって「薬」であると同時に「毒」でもあります。現代において、それらは有用な道具としてのみならず、監視や管理、さらには暴力的な「生死の選別」へと結びついています。本展ではこうした状況を見据えながら、「浮遊する器官」が社会の中でどのように機能し、人間の感覚や倫理にいかなる変容をもたらしているのかを見つめ直します。

天井高7.2mの会場を飛行するドローンとカタパルトが対話する新作

BUGの天井高(7.2メートル)を存分に活かし、AIを搭載したドローンとそれを撃墜しようとするカタパルトが対話を重ねる新作を展示します。会場を飛行するドローンは、実際に戦地を飛行しているDJI社の「Mavic 3」。空撮などを目的として民生用に開発されたドローンが、最前線の戦場でも使用されているテクノロジーの二面性(デュアルユース)が会場で立ち現れます。

会場内はネットと金網によって区切られ、観客は金網越しに両者の対話や緊張関係を鑑賞します(上演は1時間に1回の予定)。上演外の時間は金網内に入り、展示資料やカタパルトが投てきしたものを間近でご覧いただくことが可能です。

最新の軍事技術であるドローンと、古代の兵器であるカタパルト。両者は、土地や建造物に刻み込まれた暴力の記憶や巨大テック企業によって加速する封建的な状況、また特定の場所が強いられてきた搾取の歴史などをめぐり、それぞれ異なる立場から意見を交わします。この対話の展開に応じて、カタパルトはドローンに物を投げ付けます。本展では、この二者の関係を通じて、現代社会における権力構造やそこに対する個々人の関与について、身体的な感覚とともに描き出すことを試みます。

会期中にイベントを開催

会期中、出展アーティストとゲストによるトークイベントを開催します。
※開催時間や参加方法などの詳細はBUGウェブサイトの展覧会「イベントページ」に随時更新します。

▶︎ 2月25日(水)19:00〜20:30
「アートにまつわるキャリアトーク」

出演:やんツー(アーティスト)、筒井一隆(BnA Alter Museumアートディレクター)、野瀬綾(BUGキュレーター/プランナー)
本展の企画に携わった3名がアーティストやディレクター、キュレーターのキャリアについてお話しします。国内外さまざまな美術館や芸術祭で展示してきたアーティストのやんツーさんと、京都のアートホテル「BnA Alter Museum」で展示スペースと客室のディレクションをおこなう筒井さん、そしてBUGで展覧会やBUG Art Awardの企画に携わる野瀬が、三者三様のキャリアについてお話しします。

▶︎ 開催日時未定
「オリジナルビール片手にやんツーさんとめぐる!会場ツアー」
ナビゲーター: やんツー(アーティスト)

やんツーさんが茅ヶ崎のブルワリー「Passific Brewing」とコラボレーションしてつくった本展オリジナルビールの「FRYEING ORGANS」。こちらのビールを片手に、やんツーさんと一緒にBUGの会場をめぐるツアーです。作品制作にまつわるエピソードを直接聞ける貴重な機会、ぜひご参加ください。

[Instagram] @passificbrewing


アーティストプロフィール

やんツー / yang02

1984年、神奈川県生まれ。絵を描く、鑑賞する、作品を設置撤去するなど、美術の制度にまつわる人間特有と思われている行為を、機械に代替させるインスタレーション作品で知られる。また、近年はテクノロジーの利便性や合理性の背後に隠蔽される、政治性や特権性、暴力といった問題について考察するため、レーシングカー玩具を鈍速化させたり、自作の大型発電機によって展示空間を発電所に変容させるなど、技術と社会の関わりをテーマに制作している。
文化庁メディア芸術祭アート部門にて第15回で新人賞(2012)、同じく第21回で優秀賞(2018)を受賞。TERRADA ART AWARD 2023 ファイナリスト寺瀬由紀賞。ACCニューヨーク・フェローシップ(2023)にて6ヶ月渡米。近年の主な展覧会に、近年の主な展覧会に、「瀬戸内国際芸術祭2025」(平賀源内記念館、香川、2025)、「Random Access Project 4.0」(ナム・ジュン・パイクアートセンター、龍仁、韓国、2025)、「MOTアニュアル2023」(東京都現代美術館、東京、2023)、「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館、東京、2022)、「遠い誰か、ことのありか」(SCARTS、札幌、2021)、「DOMANI・明日展」(国立新美術館、東京、2018)、などがある。


開催情報

会期

2026年2月25日(水)– 4月5日(日)

時間

11:00 — 19:00

休館日

火曜

入場料

無料

主催

BUG