『ドゥーリアのボールルーム』の企画について連絡をもらったのは去年の11月。さん、エスムラルダさんと会って企画について聞いた。
医療的ケア児の養育者がドラァグクィーンになって医療的ケア児の話す声をリップシンクする、そのパフォーマンス監修をということだった。よくわからないまま引き受けた。
年が明けて打ち合わせをするうち、さんから僕に「お願いしたいこと」という文書が届き、「避けてほしいこと」として、「当事者の経験を物語としてまとめること」「社会的意義・メッセージの提示」「観客の理解・感動を前提とした構成」「『代表的な声』『象徴的な存在』の設定」が。併せて「完成度の高い上演を目標にしない」ことが「共有したい認識」としてあげられていた。

 「しないこと」ばかりじゃないか。「すること」は何なんだ? 言語化されないまま、参加者の面談の日程になった。

パフォーマンスの応募者の方たちとリモートでお会いしてお話をうかがううち、キッズフェスタという、障害のある子どもたちの自立支援を支える福祉機器の展示体験イベントについて知った。行ってみようと思った。
4月19日、日曜日。会場は有明GYM-EX。よく晴れた暑い日で、向かいの芝生広場では何組もの家族がピクニックを楽しんでいた。
会場に入って驚いたのは、医療的ケア児とその家族と思われる人たちが大勢いたこと。とても楽しそうなようすで。あとから参加者の大野さんにうかがったところでは、キッズフェスタは、医療的ケア児の家族にとっては、同じ医療的ケア児と家族に会える場としてとても楽しみなイベントなのだそうだ。
福祉機器がこんなに子どものためを思って作られているということ。七五三の着物やパーティドレスがあったのも、当然なのだけれど、医療的ケア児に対する深い愛情がうかがえるものだった。『ドゥーリアのボールルーム』もこんな場になったらいいなと思った。

さんにキッズフェスタのことを伝えようと思いながら、炎天下を歩いたせいで早々にダウンしてしまい、翌朝目覚めると、昨夜遅くさんが亡くなったという知らせが届いていた。
さんが亡くなって、どうやってさんの考えたことを実現していくかということに、みんなで取り組むことになった。

参加の3人へのレクチャーをすることになっていた。エスムラルダさんは、メイクの過程を実際に見せながらドラァグクィーンとメイクについて。僕はパフォーマンス監修として、「ドゥーリア」、「クィア」、「キャンプ」とは何かという話をした。
ダムタイプの《S/N》で古橋悌二さんがメイクをしながら自分がゲイであること、AIDS患者であることを語り、シャーリー・バッシーが歌う「people」をリップシンクする映像も見てもらった。
「キャンプ」は、「芸術として失敗しているほど、キャンプとしては成功している」という逆説的な面白さを持っているということも伝えた。これはキャンプについての真理だが、参加のみなさんに安心してもらうための言葉であるのと同時に、僕自身の不安を取り除くためでもあったと思う。
失敗してもだいじょうぶです。失敗してもそれが「キャンプ」になる。成功というのが何を指すのかはわかりませんが、正解を求めなくていいです。先日行ったキッズフェスタのような場が生まれるといいと思っていますと話した。その後の準備の過程では、だいじょうぶですよ!とずっと言っていたように思う。

3人のパフォーマンス、ミナアピオンさん、ピンクノナースフクスキーさん、キセツカニューラさん、それぞれがとても素晴らしかった。パフォーマンスの元になる感情や事実はそれぞれとても重く大切なものだけれど、それを説明しなくても、圧倒的な力のある表現になっていたと思う。
どうしていいかわからなかったさんの「◯◯しない」というなぞなぞのようなオファーは、完全なかたちで実現していた。さんは喜んでくれているだろうか。

ドラァグクィーンのパフォーマンスというのが、そもそも、常識や物語に回収されるのを拒否して笑い飛ばすところから始まっているのだ。答えは企画の初めからすでにあったのだと気づいた。
「医療的ケア児」と「クィア」、遠いと思っていた二つはとても近かったのかもしれない。開催期間中のBUGは、その2つが出会う場所として、この企画がなければ出会うことがなかった人たちが親しく語り合う場になっていた。

 『ドゥーリアのボールルーム』のような場がこれからあちこちで生まれるといい。来年のキッズフェスタには必ずうかがおうと思っている。そこではまたさんに会えるような気持ちでいる。



関根信一/Shinichi SEKINE
演出家・劇作家・俳優

演出家・劇作家・俳優。オープンリーゲイの劇団フライングステージ代表。
フライングステージでの作/演出/出演作に、同性婚の問題を扱った連作『Friend, Friends 友達、ともだち』『Family, Familiar 家族、かぞく』『LIFE, LIVE ライフ、ライブ』、小学校を舞台にした『子どもと大人のフライングステージ アイタクテとナリタクテ』、ゲイの高校教師のカミングアウトをテーマにした『お茶と同情 Tea and Sympathy』、HIV内定取消訴訟を題材にした『Rights, Light ライツ、ライト』、ゲイの老いと死を描いた『Four Seasons 四季 2022』、夏目漱石『こころ』をモチーフとしたオムニバスの二部作『こころ、心、ココロ 日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語』など。
毎年末には、クィア演劇のイベント「gaku-GAY-kai」を主催。ゲイタウン新宿2丁目を舞台に名作戯曲を翻案した『贋作・冬物語』『贋作・終わりよければすべてよし』『贋作・十二夜』(以上、シェイクスピア原作)、『贋作・桜の園』(チェーホフ原作)、『贋作・真面目が肝心』(オスカー・ワイルド原作)などを作/演出/出演。
児童青少年向けにLGBTQを題材にした『わたしとわたし、ぼくとぼく』(劇団うりんこ)など、他劇団での作/演出も多く手がける。

1991年 神奈川戯曲賞佳作入選『ぼくのおじさん』
1992年 劇団フライングステージ旗揚げ
1997年 豊島区主催池袋演劇祭大賞『陽気な幽霊 GAY SPIRIT』(作/演出/出演 関根信一)
2002年 東京レズビアン&ゲイパレード2002実行委員長
2004年〜2012年 日本劇作家協会教育部として杉並区立富士見丘小学校演劇授業担当
2006年 サンモールスタジオ最優秀作品賞「ミッシング・ハーフ」、最優秀女優賞(関根信一)
2008年 福島県立いわき総合高等学校 芸術・表現系列 卒業公演『あいだにあるもの』作/演出
2015年〜2018年 2020年〜2023年 世田谷パブリックシアター ワークショップ「地域の物語」進行役
2019年 早稲田大学演劇博物館主催 エンパク★こどもプログラム こどものためのフライングステージ『アイタクテとナリタクテ』リーディング上演 作/演出

法政大学、共立女子大学、東京工業大学(現 東京科学大学)、埼玉県立芸術総合高等学校、さいたま市立浦和高等学校、恵泉女学園中学・高等学校、河合塾cosmo、聖路加国際大学等での授業/講演の他、自治体主催の講演、ワークショップ等も多く手がける。

・劇団フライングステージ公式X https://x.com/flyingstage
・劇団フライングステージのブログ http://flyingstage.cocolog-nifty.com/blog/
・劇団フライングステージホームページ https://flyingstage.stage.corich.jp/stage