株式会社リクルートホールディングスが運営するBUGでは、2024年3月6日(水)より、千賀健史個展「まず、自分でやってみる。」を開催します。本企画はBUGの活動方針の一つである“キャリアの支援*”に基づき、更なる発展を目指すアーティストに対し、その足がかりとなることを目的とした展覧会です。

千賀は2017年の第16回写真「1_WALL」**に、インドのカースト制度、貧困、学歴社会をテーマにした作品“Bird, Night, and then”で応募し、グランプリを受賞しました。「1_WALL」では、社会で起こる事象を構造的に捉えた視点や、フィクションとノンフィクションを交錯させる編集力、写真媒体の活用の巧みさなどが評価されました。2018年には自身初の個展「第16回写真「1_WALL」グランプリ個展「“Suppressed Voice”」をガーディアン・ガーデンにて開催しています。また、「第8回大理国際写真展」にて最優秀新人写真家賞を受賞(2019、中国)、アルル国際写真祭「The Luma Rencontres Dummy Book Award Arles」ショートリスト入り(2019,2022、フランス)、『British Journal of Photography 』が選ぶ今年注目の写真家(2021、イギリス) に選出されるなど、世界各国で作品を発表し評価を得ています。

これまでには、貧困や自殺の連鎖、スティグマ(特定の属性や事象への差別・偏見)といった千賀自身の身近に存在する社会問題を起点に、その問題を引き起こす構造や関係者それぞれの視点を顕(あらわ)にする作品を発表してきました。その問題や関係者に対する千賀の視点は俯瞰的であり、また数年にわたる入念なリサーチによって中立性を担保しようという姿勢が見受けられます。

そして、その根底には、二元論による対立構造を回避しようとする意識や、鑑賞者が社会問題に対して当事者意識を持つことへの期待があり、 作品は鑑賞者が社会や他者への想像力を働かせる端緒(たんしょ)となってきました。

本展では、2019年から約3年間にわたり千賀がリサーチしてきた特殊詐欺を取り巻く社会構造や個々人をテーマとし、写真、映像を含むインスタレーション作品を展示します。展覧会名と同名である「まず、自分でやってみる。」の作品シリーズは、千賀が詐欺犯や被害者などに扮して撮影したポートレートを水溶紙に印刷し、そこに水を吹きかけ、紙を溶かして作られています。この水溶紙は、実際に詐欺グループが証拠隠滅のためによく用いるもので、ほとんど原形を留めない紙からは顔貌が判別できず、そこに居た人/消えた人を想像することしかできないでしょう。特殊詐欺の被害額が最大となった2014年から、千賀が初めてこのテーマで作品を発表した2021年まで被害は減少傾向にありましたが、コロナ禍を経て2022年には8年ぶりに増加しました。本展では、被害が増加した背景にある社会や時代の変遷から影響を受けた個々の生活の変化に焦点を当てます。

*BUGの活動方針の一つとして、アーティスト/アートワーカーのキャリア支援を掲げています。BUG Art Awardの開催、展覧会の開催、ワークショップやイベントの開催を通じて、この実現を目指しています。詳細はABOUTページをご覧ください。
**2009〜2022年にリクルートホールディングスが運営したコンペティション。グラフィック部門と写真部門があり、各25回開催。BUG Art Awardの前身として、新しい才能を発掘し、世に送り出す役割を果たしました。


みどころ

展覧会名に込められた意味

展覧会名である「まず、自分でやってみる。」は、人々に自力で工夫して問題を解決することや、自助を促すような印象を与える言葉です。私たちは普段、職場や学校、家庭などで問題に直面したとき、まずは自分の頭で考え、何かを試してみるのではないでしょうか。それでも解決できなければ、他者を頼るという順序がコモン・センス(社会や文化における共通の認識)として存在しています。そして千賀自身も生活や制作のなかで、まずは自分でやってみることを大切にしてきました。一方で千賀は、コロナ禍で生活が困窮する知人たちを目にしたとき、自分でやってみるの適用範囲や条件に疑問を抱き始めます。「どこまで行けば他者を頼ってもいいのだろうか?」個々人によって言葉の認識には差異があり、本来は他者や社会全体を頼るべき状況にも関わらず、どこまでも真摯に一人で抱え込む人がいます。そうさせている社会的な背景も存在します。その結果、藁にもすがる思いで取った行動が法を犯すものとなってしまうこともあるかもしれません。本展を鑑賞することで、いまの社会に通底する思想やそれがさまざまな立場の人に及ぼす影響について想いを馳せることになるでしょう。

アーティストにとって最大規模となる新作《Circuit of Life》を展示

本展の展示作品は全て新作です。中でも《Circuit of Life》はこれまでに千賀が制作した作品のなかで最大のサイズであり、鑑賞者が入り込める体験型の作品です。《Circuit of Life》は「人生ゲーム」を模したインスタレーション作品であり、そのマス目には特殊詐欺について千賀が取材やリサーチを行った際、見聞きした言葉を元にしたお題が書かれています。展示スペースには複数のコース(人生の道のり)が張り巡らされ、コースはときに交差します。加害者、被害者、第三者といった立場の異なる人々の身に降りかかった出来事が並置されることで、個々の人生に起こることは紙一重の差であることや僅かなタイミングや運によって人生が変わることが表現されています。また、この作品は実際にスマートフォン上のサイコロを振って体験することが可能です。ぜひ会場でご参加ください。

毎週水曜は20時までのナイト開館、19時から展覧会ツアーを開催

これまで来場者の方からご要望をいただくことがあったナイト開館(20時までの延長開館)を初めて行います。またナイト開館を実施する毎週水曜は、19時から展覧会ツアー(15〜20分程度)を開催します。ツアーは予約不要のため、ぜひお気軽にお越しください!
開催日と内容はこちらよりご確認ください。


アーティスト紹介

アーティスト 千賀 健史 / Kenji CHIGA
千賀 健史 / Kenji CHIGA

1982年滋賀生まれ。2008年大阪大学基礎工学部卒業。第16回写真「1_WALL」グランプリ、第44回キヤノン写真新世紀優秀賞、第8回大理国際写真展最優秀新人写真家賞を受賞。また、アルル国際写真祭The Luma Rencontres Dummy Book Award Arles2019,2022ショートリスト入り。
主な展覧会に、第16回写真「1_WALL」グランプリ個展“Suppressed Voice”(ガーディアン・ガーデン、2018)、「写真新世紀展2021」(東京都写真美術館、2021)、千賀健史個展“Hijack Geni”(Reminders Photography Stronghold、2022)、プリピクテジャパンアワード「Fire & Water」(東京都写真美術館、2022)がある。


開催情報

会期

2024年3月6日(水)– 4月14日(日)

時間

11:00 — 19:00
*毎週水曜日は20:00まで開館、19:00からはツアーも開催します。

休館日

火曜

入場料

無料

主催

BUG

協力

キヤノン株式会社